妻の遺品整理を「感謝離(かんしゃり)」と名付け、妻への思いをつづった新聞投稿をきっかけとした本が生まれた。「感謝離 ずっと一緒に」(双葉社)。大切な人との出会いに感謝しつつ、思い出が詰まった物との別れを前向きにとらえ直す姿勢と夫婦愛に、共感が広がっている。
拡大する伊豆へ旅行した時の河崎啓一さん(右)と和子さん。2008年ごろ=河崎さん提供
著者は東京都府中市の元銀行員、河崎啓一さん(90)。「赤い糸で結ばれ」、62年余り連れ添った和子さんが昨年3月、88歳で亡くなった。寂しさのなか、妻の服に「ありがとう」と頭を下げながら整理したことを、「断捨離」にあやかって感謝離と名付けた。
その心模様を軽妙な筆致でつづり、朝日新聞リライフ面の「男のひといき」に投稿。昨年5月に掲載されると反響を呼び、翌月にはそれらの声をまとめた続報の記事も載った。
拡大する河崎啓一さん(右)と和子さん。油絵を習っていた和子さんの先生の展覧会で。2008年ごろ=河崎さん提供
編集者の体験も投影
今回、出版を企画したのは、この記事を読んだ双葉社の編集者、湯口真希さん(49)だ。
湯口さんの父は5年前に76歳で急逝。突然倒れてからわずか2週間後、膵臓(すいぞう)がんだった。父が愛用していたマフラー、帽子、パジャマ、趣味で書いていた小説の原稿……。ぬくもりを感じる数々の遺品に母(80)は1年間手をつけられなかった。葛藤を抱えつつも少しずつ遺品を整理していく母。遠方で暮らす湯口さんは、案じながらも力になれなかったという後悔を抱き続けてきた。そんな時に目にしたのが「感謝離」の反響編の記事だった。
「奥様への深い愛情とともに、物や人に感謝を込める生き方に感動しました。愛着のある物を捨てるのはその人とのつながりまでも断つようでつらい。でも、感謝して手放せば、むしろ心のふさぎがとれ、前を向いて生きられる。考え方一つでこんなにも豊かな人生が送れるのだと気づかせてくれた感謝離は、私にとって一筋の光です」
そして気付いた。ぬくもりが詰…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル